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不妊症の治療法

8. 体外受精−胚移植法(IVF-ET)

  1. 体外受精−胚移植法(IVF-ET)とはどんな方法ですか?
     IVF-ETは大きくわけて5つの過程があります。
    • 過排卵刺激
      IVF-ETがうまくいくにはできれば多くの卵が得られればそれだけ有利です。そのため通常hMGという排卵誘発剤(「排卵障害の項」を参照して下さい。)を注射し卵巣を刺激し多くの卵胞(卵)を成熟させます。
    • 採卵
      図7前過程で刺激され、成熟した卵を卵巣から吸い取り出す方法です。具体的には膣の中に経膣プローブという超音波(エコー)の機器を入れ、エコーを見ながら卵巣の中に出来た卵胞に細い針を刺し吸引します。これを採卵といいます。右の図に示しました。

    • 媒精
      採卵で取り出された卵は直ちに培養液の中に入れられ、培養器の内で培養されます。これを前培養といいます。そして約6時間前培養した卵に下の図に示すように御主人の精子を培養液の中に加えます。これを媒精といいます。
      図8

    • 受精(IVF)、卵割
      媒精すると、精子は培養液を泳いで卵の周囲をとりかこみ(図(a))、このうち一匹の精子だけが卵の中に入ります(図(b))。そして約18時間すると卵の中に精子が雄性前核という核を形成し受精したことが確認できます。この時期を前核期(2PN)といいます(図(c))。受精した卵は細胞分裂を開始し、2細胞→4細胞(図(d)(e))へと分裂します。これを卵割といいます。これはもちろん体の外で受精がおこりますから体外受精(IVF)というわけです。
      図9

    • 胚移植法(ET)
      受精し細胞分裂した卵(この時期を胚とよびます)のうち、良好な胚を原則1つ選び子宮の内に注入します。これを胚移植とよびます。細いチューブの先に胚を吸い取り、少量の培養液とともに子宮腔内に注入してあげます。
      図10

    以上の過程をまとめてみますと
    • 過排卵刺激(排卵誘発剤による卵巣への刺激)
    • 採卵(卵巣から卵を取り出す)
    • 媒精(精子を加える)
    • 体外受精(培養液の中で受精をおこさせる)
    • 胚移植(受精した胚を子宮腔内に注入(移植)する)
    となります

  2. 体外受精はどんな不妊症の方に行われますか?
    • 卵管の異常
      両側の卵管が炎症などで閉じてしまっている(卵管閉鎖)場合は卵と精子が出会えませんからIVF-ETが必要です。その他、卵管の周囲に強い癒着がある場合も対象となります。
    • 高度骨盤内癒着
      子宮、卵管、卵巣などの骨盤内臓器が強度に癒着している例。例えば過去にクラミジアなどに感染し、卵管炎や骨盤腹膜炎などをおこしたことがある人など。その他、子宮筋腫の手術(筋腫のコブだけ摘出した)などでも癒着がおこります。
    • 子宮内膜症
      内膜症に対してホルモン療法、腹腔鏡などを行ったにもかかわらず妊娠に成功しない例。子宮内膜症とその不妊については本ホームページ「子宮内膜症による不妊の治療」を御参照下さい。
    • 精子の異常
      精子減少症や精子無力症などに人工授精を行っても妊娠に成功しない例。その他少数ながら妻側に抗精子抗体がある場合もIVF-ETが必要です。 詳細は本ホームページ「男性不妊症の治療法」を御参照下さい
    • 原因不明不妊
      明らかな不妊原因がなく、人工授精や過排卵刺激法など他の治療をしたにもかかわらず長期間妊娠に成功しない場合も対象となります。 詳細は本ホームページ「原因不明不妊の治療法」を御参照下さい。
    • 長期不妊、あるいは高齢(40歳〜)の不妊の方

    以上のようにIVF-ETは不妊症のかなりの方が治療対象になり得ます。

  3. IVF-ETを受ける際に必要な検査はありますか?
    • 子宮卵管造影(HSG)
      (すでに不妊検査の過程でHSGが済んでいる場合はIVFのためにあらためて再チェックすることはありません。あるいは他院で行なっていて子宮に問題がないといわれている場合は省略できます。)
    • 精液検査
    • ホルモン検査
      (月経開始第2日目に採血し、卵巣刺激ホルモン(LH,FSH)を測定します。)
    などです。

  4. 当クリニックのIVF-ETの実際について
    • IVF-ETの準備
      IVF-ETを受けられる方は治療の前の周期に治療の予定を具体的に御説明いたします。(毎月第4木曜日PM2:00〜3:30の不妊学級にて)また採卵に必要な検査をチェックし、排卵刺激に必要なスプレキュアあるいはブセレキュア(点鼻薬)という薬を前もって処方いたします。
    • 排卵刺激法
      当クリニックでは多くの卵を得るための排卵刺激法にGnRHアナログ(薬品名スプレキュア)+hMG法とよばれる標準的な方法で行っております。その基本はhMG(更年期婦人尿由来の性腺刺激ホルモン)を注射して卵胞(卵の入った袋)を刺激しながらスプレキュアとよばれる点鼻薬を併用し採卵のタイミングをある程度コントロールする方法です。
       これにも2つの方法があります。
      • GnRHアナログ(スプレキュア)+hMG(longプロトコール法)
        採卵を予定した周期の月経の開始する約7日前からスプレキュアをスタートし、これを採卵の直前まで継続する方法です。スプレキュアを1日2回あるいは3回、左右の鼻に一ふきづつ点鼻します。そして通常月経開始の第3日目からhMGの注射をスタートします。
        図11a
      • GnRHアナログ(スプレキュア)+hMG (shortプロトコール法)
        スプレキュアは採卵周期の第1日目からスタートし、点鼻する回数が1日3回であるところがlongプロトコール法と異なります。
        図11b
        排卵刺激法の実際
        longプロトコール法にするかshortプロトコール法にするかは受診者の年齢などで決められます。いずれにせよ排卵を刺激するためのhMG(当クリニックではフェルティノームP→ヒュメゴンを使用)を月経の第3日目からスタートします。連続的に7(〜9)日間注射します。注射をスタートして5〜6日目に超音波で卵胞の発育をチェックします。そして卵胞の大きさが直径18mm以上に達した時点でhMGの注射を中止します。そしてその翌日あるいは翌々日に最終的な排卵をうながすhCGという注射(当クリニックではhCG10000単位)をします。するとこのhCGの注射の36時間後に排卵がおこりますから、その1時間前、つまりhCGをうってから約35時間後にいよいよ採卵します。

      • その他の排卵刺激法
        • Clomid 単独
          のみ薬の排卵刺激剤Clomidを5日間服用し採卵する方法
          Clomid 単独
        • Clomid+HMG併用法
          月経第3日目からClomidを服用し、第5日目からHMG(Humegon150iu)を約5日間位注射する方法
          Clomid+HMG併用法
        • HMG+GnRHantagonist(ガニレスト)併用法
          HMG(Humegon)を月経第3日目から注射します。5〜6日間注射をすると卵胞が成熟し、卵胞から卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されます。このエストロゲンは視床下部のホルモン中枢を刺激して性腺刺激ホルモン-放出ホルモン(コナドトロピン-放出ホルモンGn-Rh)の放出をうながします。するとGn-Rhが脳下垂体を刺激し、黄体化ホルモン(LH)を放出します。(LHSurge)。すると排卵が起こってしまいます。この排卵をコントロールするためにはLHを放出させるGn-Rhを抑制してあげれば可能になるわけです。このGn-Rhを抑制する薬(ガニレスト)が新たに開発され、当クリニックでも使用しはじめています。
          HMG+GnRHantagonist
        上記3つの排卵刺激法は主に卵巣の反応が弱い人(poor responder)に用いられます。
        このようにいろいろな卵巣刺激法がありますが、その人の年令、今までの排卵刺激の回数などによりいちばん良いと思われる方法で刺激を行ないます。

    • 採卵の実際 (oocyte pick up (opu))
      採卵の概要については前に述べてきましたがその実際は次の通りです。
      • 採卵の日はhCGを注射した35時間後ですので採卵の2日前に採卵日が決定されます。この日はおよそ月経が始まってから13から14日頃にあたります。
      • 採卵は通常午前8時30分からスタートしますので当日は8時10分頃来院していただきます。
      • 採卵は内診の時のように診察台に横になり行います。採卵に要する時間は約5〜10分間です。その間、静脈麻酔を行いますので痛みは全くないわけではありませんが強い痛みを伴うものではありません。
      • 採卵した後はベッドにて約4時間程安静にしていただき最終チェックの後、午後1時頃帰宅可能です。もちろん一人で帰宅できます。
      • 採卵が終了する9時頃、御主人に精液を採っていただきます。精液採取の後、御主人は仕事に出かけられて構いません。下図に排卵日のスケジュールを示しました。基本的にはこの時間に採取していただきますが、仕事の都合上、御主人の来院が困難な場合はお宅であらかじめお渡しした容器に精液を採り、奥様が持参することも出来ないわけではありません。その場合は8時以降の採取が理想的です。

      図12

    • 媒精
      採卵した5〜6時間後にあらかじめスイムアップ法で良好な精子を選別しておいた御主人の精子を、卵の入った培養液の中に添加し、培養器の内で受精させます。受精の有無は媒精した約18時間後、つまり採卵の翌日の朝にわかります。
    • 胚移植(ET)
      受精した卵は順調に発育すれば採卵の2日後には4細胞、3日目には8細胞に発育します。そのうちグレードの高い胚(質の良い胚)を原則1個子宮腔内にもどします。胚移植の当日は通常午前11時頃スターとします。胚移植は約5分位で終了します。その間痛みなどの苦痛はありませんので麻酔は必要としません。そして胚移植が終了した後は約1時間ほどベッドにて安静を保ちます。下図に胚移植日のスケジュールを示しました。

      図13

      なお通常移植する胚の数は、年令が若く(35才未満)胚の質が非常に良い場合は、多胎妊娠を回避する目的で1個胚の移植を行ないます。また既にお子様が1〜2人いらっしゃる場合も同様です。
    • 余剰胚の凍結保存
      通常胚移植される胚は1つ、場合により2つです。ですからしばしば胚移植されない胚が残ることになります。これを余剰胚といいます。このような胚は凍結し保存しておくことが可能です。当クリニックでは質の良い胚を凍結保存して次回の移植に備えます。
      詳細については本ホームページ「不妊症の治療(9) 胚の凍結保存」の項を参照してください。
    • 着床のための環境づくり
      せっかく良い胚を子宮にもどしても子宮内膜に着いてくれなければ(着床)何もなりません。そのために内膜を着床しやすくするように黄体ホルモンや黄体を刺激するhCGを注射します。時に黄体ホルモンの内服でも行われます。これを黄体期管理(Luteal Support)といいます。
      図14
    • 妊娠の確認
      せ胚移植の14日目頃に尿を用い妊娠が成立しているかどうか妊娠診断を行います。妊娠が確認された後は胎児の心臓の動き(心拍)が超音波で確認されるまで黄体ホルモンを注射します。

  5. 体外受精-胚移植(IVF-ET)についてのQ&A
    • 仕事をしながらIVF-ETは可能ですか?
      当クリニックではIVF-ETを受ける方の80%は仕事をしながら治療している方です。もちろん仕事をしながらIVF-ETを受けることは可能です。具体的にはhMGの注射には通院していただきます。但し排卵日だけは麻酔をすることとその後の数時間の安静が必要ですので仕事は避けていただいた方がよろしいです。胚移植日は5分間位の移植の後、約1時間ベット安静をしていただいておりますが、その後の仕事には全く支障がありません。 採卵日には仕事を休んでいただきますが、お勤めの都合上あらかじめその日がわかれば好都合ですね。排卵日は通常月経が開始した13〜14日目の頃の事が多いのです。
    • どういう不明原因の人がIVF-ETをうけますか?
      IVF-ETの治療対象については既にのべましたが、当クリニックではIVF-ETの対象となった人の原因の第1位は男性不妊です。すなわち精子減少症のような場合です。次いで多い原因は卵管閉鎖、原因不明不妊、子宮内膜症などです。いずれもIVF-ETをする前に人工授精や、排卵誘発などの治療をひととおり行った人が対象傾向があります。しかし最近では他の病院で既にいろいろ治療をしたものの妊娠に成功しないため当クリニックを受診する方も増えています。このような方には直ちにIVF-ETにとりかかることも少なくありません。
    • 精子減少症の場合、何回位AIHをやってからIVF-ETにステップアップしますか?
      既にAIHの項でふれましたが、AIHで妊娠する例のほどんどが3〜4回で妊娠しています(不妊症の治療法のうち「人工授精(AIH)について」を参照)。ですから精子減少の程度にもよりますがAIHを3〜4回行っても妊娠しない場合はIVF-ETに移行した方がよいでしょう。ただし、精子数が1000万以下、あるいは運動率が30%以下の場合ははじめからIVF-ETやICSIからスタートすることをおすすめします。
    • 子宮内膜症が不妊原因の場合、やはり腹腔鏡を先に行って妊娠しないときはじめてIVF-ETに移行するのですか?
      子宮内膜症の治療方針は不妊症の治療「(3)子宮内膜症」の項でふれましたが、必ずしも子宮内膜症→腹腔鏡(LPR)→IVF-ETではなく子宮内膜症→IVF-ETのこともあります。
    • 採卵する時、痛みはありませんか?
      当クリニックでは通常静脈麻酔をしますが、全く痛みはないということはありませんが、非常に痛みを伴い、大きな苦痛を与えるということはありません。
      それに採卵の操作は5〜10分間と短時間で済みます。
    • 年齢はIVF-ETの妊娠率にどのような影響をあたえますか?
      下図は体外受精胚移植法IVF-ETと顕微受精法ICSIをあわせた補助生殖技術(ARTといいます)と年令との関係を示したものです。
      図18
      2002年における楠原レディースクリニックの成績です。20才代での妊娠率は42.9%、30代前半(30〜34才)でも41.5%といずれも高い妊娠率が得られます。しかし30代の後半から(35〜39才)妊娠率は低下し、27.9%となり、40才代では16.7%とかなり低下してしまいます。これは当クリニックでのデータですがこのように年令とともに妊娠率が低下するというデーターは多少の差異はあるもののどの病院でも同様の傾向にあります。
      このように年齢とともに妊娠率が低下する原因は、主に卵巣内の卵に問題がでてくるからです。つまり(1).卵の質が低下します。(2).閉鎖卵胞といってホルモンに反応しない卵が増えます。(3).排卵の基になる原始卵胞数も減少し、(4).卵や受精卵(胚)の染色体の異常が増えるなどが原因です。このように年令とともに妊娠率が低下するのは避けがたい事実です。不妊治療はなるべく早く開始したいものです。